『喜劇 特出しヒモ天国』の素晴らしさについて

昨日、シネマヴェーラで観てきました。やはり傑作だった…。最近も劇場でかかっていたので、すでにご覧になってる方も多いかと思いますが、もし未見の方がいるならぜひ。わたしが6年前に書いたテキストがあるので、貼っておきます。でも上映今日までなのです。急いで!

『喜劇 特出しヒモ天国』
カメオ出演東映セレブを探せ!>
東映京都) 監督:森崎東 脚本:山本英明 松本功 撮影:古谷伸 美術:吉村晟 編集:神田忠男 音楽:広瀬健次郎
出演:山城新伍 芹明香 殿山泰司 川谷拓三 カルーセル麻紀 川地民夫 藤原釜足 池玲子('75)
 
すごい面白かった…、傑作です。『喜劇 女は男のふるさとヨ』よりもこっちの方がイイ。なんといっても顔ぶれが賑やかだし、松竹と比べて猥雑さや露出度や、ワル度が高いです。

内容。墓場をはさんで寺のお向かいにあるストリップ小屋。今日も巡業で滞在中のストリッパーさんたちが特出しサービスに勤しんでいる。ジーン(池玲子)は若くて美貌の花形。サリー小夏(カルーセル麻紀)は性転換美女で、九州からサリーを女と思いこんで追っかけてきた、純情な義一(川地民夫)に真実を告げるか悩んでおり、恋人のいないリズ(絵沢萠子)はそれすら妬けて腹立たしい。楽屋にはストリッパーたちのヒモがブラブラ遊んでいて、博打をしたり彼女の荷物持ちをやったりして、毎日がすぎていく。
そして、今日も運命がスッ転んでストリップ嬢と関わりを持つ人々が生まれる。ひょんなことから、サラリーマンだったのにストリップ小屋の支配人→ジーンのヒモとなる松下(山城新伍)や、アル中のローズ(芹明香)のせいで刑事の仕事を失職し、そのまま何故かローズのヒモになるハメに陥る大西(川谷拓三)。でもここはそういった出入りも鷹揚に受けとめる世界だ。
巡業が終われば地方に移動して別れたり、新しい顔ぶれに逢ったり、また同じ小屋で一緒になったりする流れ者たちは運命も流れるままで、嫉妬心で大西はローズの元を飛び出し、松下はジーンと別れてローズのヒモになり、警察の本格的な手入れで全員検挙されてみたりする。それでも、きっと彼らのふてぶてしい、流転の日々は明日も続くのです…という話。
 
わたしは個人的に東映の役者さんが好きだからかもしれないけど、この作品は東映で撮ってこその作品だと思う。役者さんが男女とも豊富だしねえ。だって楽屋で遊んでるヒモたちにピラニア軍団の司裕介、片桐竜次、白井滋郎らですよ。このヤクザっぽい男前たちが、ひたすら女性に優しくユーモラスにダラダラしてるんだから、そりゃ楽しいですわよね。女優さんたちの脱ぎっぷりも遠慮がないし、松竹の家庭的ハートウォーミングさに比べて、いかにも東映らしい猥雑な、雑然とした演出にそれ相応の不良な役者が顔を揃えた映画でした。音楽も松竹のぬるま湯的なのと違って、ど派手なジャパニーズソウル。
 
映画の構成は群像劇で、特にひとつの軸になる話があるわけでもなく、いろんな登場人物の断片的挿話が積み重なっていくタイプの作品です。一応主役とおぼしき池さんなんて、前半は目立つけど後半はほとんど登場しませんし、それでも面白いから気にならない。そんな瑣末や脇役が異様に充実してて、ユーモアも素晴らしいし観ててワクワクする作品です。
たとえば聾唖者の夫婦(下条アトム・森崎由紀)が子供が欲しいから金がいると、奥さんのストリッパー業を志願してきたり、老いた振り付け師でヒモ志願の藤原釜足は、交通整理をしているデブ女をストリッパーにスカウトして、交通整理の旗で股間を隠す振り付けをつけたり。芹明香様が今回はダウナーに大ハッスルです!アル中の役なんだけど、他のストリッパーに夜這いをかけた岡八郎が芹さんを間違えて抱いてしまい、ヒモの川谷拓三が嫉妬して怒った時に、芹さんが「誰ヤと思った時には、もう半分入ってたんやもん!」とダウナーなまま叫んだり、なんかそういうアネクドトがほんとに密度濃く入ってて、次から次へとお話が展開します。最後の手入れのシーンのバイタリティなんて、観てるだけでワーッて嬉しくなりました。
 
それと、ストリップと同時進行で、裏の寺で老婆たちに節談説教をしている殿山泰司がいます。語尾でコブシを回しながら、仏教の生死観をわかりやすく説いてるのですが、このことと、映画が断片的挿話の重層で成立していることはきっと重なってると思う。
本作は人間関係の縮図そのままに対応してて、<始めもなければ終わりもない>。明瞭な事件の始まりもないし、ただ断片が泡のように湧きあがっては消えての繰り返しで、ラストは逮捕された移送車の中の、芹明香の正面を見据える美しいまなざしで幕を閉じるんだけど、彼女が釈放されたらまた元の流転の巷に舞い戻って、再び同じような断片的お話が繰り返されることは、察しがつくのです。この映画の挿話はほとんどが流れっぱなしで、別れたカップルがよりを戻すような起承転結の(そこで物語が息絶えるような)オチもないし、落ちぶれた人が尊厳を取り戻すような理想的決着もないし、その世界から振り落とされた人間は、そのまま疎外感を抱えて映画の中で放置された姿を描かれます。
 人生って、確かに流れっぱなしなものです。円環を描いてるようでもあるけれど、元々因果ってのは応報であることより、因が果になりその果が因となってまた新たな果を産み出す…という永久に絶えることのない影響の流れを示していて、人と人が出会って、出来事が起こって、その出来事の余波が他人に何かを起こして・・・という、逆戻りはせず一連の出来事がただ起こっていくのが、人生なのです。たとえ生き死にという終始があっても、ちょっと退いて眺めればそれは世界の連鎖の一環にすぎなくて、だから、この映画は人の世そのものな感じです。本作の中で、火事で焼け死ぬ中島葵たちストリッパー一家と、聾唖者の夫婦に生まれる赤ん坊、というのも、泡が湧いては沈むことの絶え間なし、という始まりと終わりが繰り返されて結局始まりと終わり自体に始まりと終わりがないことを、示しているのだと思います。
 
ノーメイクのすごい顔で出てくる芹明香様、後半は主役です。これはもう、芹明香による芹明香のための映画。ちょっとイッちゃってて、でもナチュラルなバイタリティのある魅力的な役は、代表作のひとつです。それに、川谷拓三も良かった。ラストもシニカルで、笑いながら疎外感で寒くなるような。芹さんとのやりとりもすごい笑える。
他にも楽しいのが、ノークレジットのカメオ出演が多いこと!屋台で川谷拓三がキレるシーンでは、客に渡瀬恒彦名和宏深作欣二、屋台のオヤジに工藤栄一。贅沢だな〜。そして喧嘩になると何故か志賀勝室田日出男(和服の女装)が参加。わたしがわからなかっただけで、他にもノークレジットの東映セレブがいるかもしれません。皆さんもゼヒ探してみてください。