真魚八重子 アヌトパンナ・アニルッダ

いまさら?という話題を書きます。

『炎のごとく』感想

 

ハードディスクから発掘しました。2001年7月! 15年も前だなんて……! いったいわたしは15年も何をしていたんでしょう。
 

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『炎のごとく』
加藤泰の美学大全開の作品。傑作です。キャストも贅沢で素晴らしい。

幕末、ばくち打ちの仙吉(菅原文太)は、大阪の賭場で揉め事を起こし傷を負った際、瞽女のおりん(倍賞美津子)に命を救われ、二人は愛し合うようになる。互いの為に命を賭ける彼らだが、ある日、仙吉が開いた縄張り荒らしの賭場が原因で、襲われた仙吉をかばったおりんは絶命する。そののち、会津小鉄と呼ばれるようになった仙吉は、大垣屋の子分となって建築稼業を任され、子分も抱え次第に落ちついてきた。いまだにおりんに身も心も捧げている仙吉だが、親が勝手に決めた許婚のお富(きたむらあきこ)が、押しかけ女房をしてくる。
しかし、明治維新前の京都の町は荒れ始めた。仙吉は新撰組近藤勇佐藤允)と親しくなり、芹沢鴨暗殺に関わり、池田屋事件蛤御門の変を目の当たりにするのだった・・・。
 
恋愛映画は苦手ですが、この愛し愛される仙吉とおりんの関係はほんとにグーッと鷲掴みにされるようで泣けます。この男女の関係はものすごく隆慶一郎的。隆慶一郎を読んだ事のある人ならきっと感受してもらえる、武士道そのままの恋愛道で、愛に命を賭けて死の寸前で常に燃え上がっているような、尋常ならざる愛し合い方。隆慶一郎の小説で、真底惚れた女が人妻だったため別れなければいけなかった後、1ヶ月もずっと泣き続けてる剣豪の男が出てくるのですが、それと一緒で、おりんが死んだ後、その出入りを決めた親分衆に諭された仙吉が、心の底から声を上げて号泣するのが凄くいいんです。女にそれだけ惚れ抜いて、人前ですら泣ける率直さと度量があることに高田浩吉の親分が感心したり、そこでも素直さからとぼけたことを言った仙吉に、しかめ面を作った大友柳太郎が思わず吹いたりするのが、もうほんとに素晴らしくて素晴らしくて、今思い出しただけでグーッとなります。この親分衆がここだけにしか出てこないんだけど、藤田まこと、大友柳太郎、高田浩吉という錚錚たるメンツで、顔を並べる親分の遠藤太津朗が、恰幅は良いけど貫禄では負けてるほどです。
 
この文太さんのキャラは下品じゃない桃さん(トラック野郎)という感じ。彼は実は呉服屋のボンボンとかで、博打が好きで家を飛び出した渡世人という設定。母親思いだった彼は女にむごいことをしたり嘘をつく男が大嫌いで、他人に迷惑をかけるヤツには我慢ならないため、人を殺めてしまうことがあるけれど、人徳もある男です。かわいいし直情型ながら魅力のあるキャラで、ほんとに文太さんならではの良さ。

あと、女が何人か出てくる中で、一番良かったのは押しかけ女房するお富。彼女も裕福な商家の娘ですが、惚れた仙吉のそばにいるため、得意の舞を活かして芸妓(描かれ方は淫らじゃなくて、今の舞子さんに近い)となる女で、彼女も隆慶一郎の描く女にとても似てる。彼女が、仙吉と共に暮らす家でただ淡々と夕飯を作る姿が2分以上続く場面があるのだけど、彼女の人柄がそこで如実に出ていて素晴らしいです。衣装も白く薄い生地の着物で、着方が洗練されていて、部屋にかける暖簾も透ける涼しげな白っぽい布。清楚だけど粋で、凛としてるけどたおやかで、女性的な美しさと清潔さが共存している、加藤泰が創り出した女性像の中でも最高なのでは。監督自身、この料理のシーンをとても気に入っていたようですし。

佐藤允も、やっぱり近藤勇みたいな男が似合います。豪胆で溌剌として、どこかのほほんともして。新撰組が座敷に大垣屋一家を呼び出し会談を持つ理由が、<新撰組は京都の庶民と親しくならなければいけないから>というものなんだけど、近藤勇沖田総司が「友達になってくれ」「僕たちと、仲良しになってください!」「友達が欲しい!!」と口々に叫ぶ場面は巨匠のなせる余裕の業だと思いました。仲良しって、大の男に言わせるのって凄い決断だよね。
 
また、相変わらずのローアングルで、なんと水の断面すら映り込ませる執着ぶり。入浴する人や橋を渡っている人を下から仰いで見上げるのに、目が1/4程水面に沈んでいるようなカットが何度も出てきます。それだけじゃなくて、様々なカットに創意工夫があって、退屈な捨てカットが全然ないです。すべてが、独創的な画面。この映像だけでも素晴らしいし、またスローモーションの使い方や、編集も良くて。細かなジャンプカットではしょったり、時間軸のごちゃ混ぜ方はまったく飽きさせないもの。ドロドロの血飛沫も健在。不必要なまでに残酷趣味で、血糊が溢れる腹のアップや、血の動脈噴水も堪能できます。音楽は鏑木創、ちょっと安っぽいジャズロックテイストです。

とにかく、魂が素で激しく息づいてる感じの、全然嫌味がないキャラクターが愛と幕末を生き抜く傑作。この映画が観られて良かったと、心から久々に感動できた作品です。
 
とにかく、魂が素で激しく息づいてる感じの、全然嫌味がないキャラクターが愛と幕末を生き抜く傑作。この映画が観られて良かったと、心から久々に感動できた作品です。